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能:小鍛治

□一条の院は霊夢を見て、三条の小鍛冶宗近に御剣を打つべく宣旨を下し、橘の道成が勅使に立ちます。
宗近はこれほどの御劔を打つ技量の者の相鎚がいないと困惑し、思い余って氏神、稲荷の明神に祈願を込めます。
道もないところら宗近に呼びかけながら奇異な姿の童子が現れ、御剣を打てという宣旨が下ったこと
御政道の正しい帝の恵みがあるのだから必ず打てる筈だと宗近をはげまます。
宣旨が下ったのはたった今のことなのにと驚く宗近に、童子は唐土の名剣の威徳を語り
又我が国の日本武尊が草薙の剣で凶徒を討った故事を語って宗近を励まし、助力を約束し稲荷山に姿を消します。
宗近は剣を打つべく壇を設え注連縄を張り祝詞を奏し待っています。
稲荷の明神が霊狐の姿で鎚を持って走り出、神威を示す舞、「舞働キ」を舞い、宗近を励まして相鎚を勤めます。
やがて御剣を打ち上げ子狐丸と名付けて勅使に捧げ、雲に乗って稲荷山に帰って行きます。

◆頭から背中までを覆う長い髪、黒頭(くろがしら)に面は童子、前場のシテの扮装です。
少々異様な出で立ちは神霊の化身を彷彿とさせます。聞きどころ、見どころのクセは三段の長編です。
凶徒の放った火に囲まれた日本武尊が、剣で焔を薙ぎ払うと剣の精霊が嵐となって凶徒を焼き滅ぼす凄まじい場面を
扇を剣に擬して髪を振り乱して縦横に舞います。長い髪がいろいろと効果を上げます。

後場のシテは赤い髪、赤頭(あかがしら)の上に狐の作り物をのせています。
稲荷明神の神体です。ワキ宗近と交互に鎚を振り上げ丁々と剣を打ちます。
結界をあらわす注連縄、鉄床、鎚が今では珍しく刀剣に対する崇敬,昔の人の記憶がよみがえります。
打ち上げて勅使に捧げ、雲に乗り飛び去るさまをキビキビと、霊狐さながらに舞います。
狐を意識して敏捷に、足使いにも工夫があります。爽やかさ第一の能であり
「型」に工夫を凝らす「型金剛」の流是が顕著な曲です。

◆狐の石像が門前に、朱塗りの鳥居が隙間なく立ち並ぶ神社をよく見かけます。稲荷神社です。
総本社は京都、東山連山南端の西の麓、伏見区にあります。
五穀をつかさどる倉稲魂を祀っていることから農業の守護神として信仰され、
後に商業、各種産業などいろいろの守護神として信仰を集めているといいます。北に深草山があります。
金剛流だけにあるある能「墨染桜」の地で、御陵の地としても知られる歌枕です。
伏見は豊臣秀吉がつくった城下町です。酒造りの町で知られ、酒好きには忘れられない名です。

◇ 宗近は平安中期の刀工で三条に住んで三条小鍛冶と称し、今も合鎚稲荷などがあり、そのあとをとどめています。
その系統の作風を京風というそうです。近くに粟田口があります。
鎌倉時代から刀剣の名工、正宗の師、国光などが輩出しました。
粟田口氏を名乗りその作品を粟田口の異称で呼びました。これを題材にした狂言「粟田口」があります。
ワキツレ勅使、橘道成は道成寺を建立したと、能「道成寺」にありますが架空の人物と云われています。

◇この曲には重い小書(一部を変えた演出)があります。この曲に対する永い間の工夫の跡の見える小書きです。
いかにこの曲が大事にされて来たかが覗われます。

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